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『ラストナイト・イン・ソーホー』の感想

 同じエドガー・ライト監督のショーン・オブ・ザ・デッドホット・ファズも「確かに面白いけど、僕の大好きなものではないなー」と思った記憶があるので、今回観に行こうか迷ったのだが、これは観てよかった。

(以下ネタバレ感想)

 

 

 

 

・ファーストカット。パースのついた廊下の向こう、自室のドア枠の四角いフレームの中で踊る主人公のシルエットで始まる。この構図は、ラストのファッションショーで再び使われるので、映画の最後に「主人公の夢の実現」を強く印象づけられた。

・話が進む中で、物語の進行方向が「デザイナーになりたい」「(夢の中で)歌手になりたい」「事件を解決したい」と移り変わっていくので、少し混乱した。でも、最終的には「デザイナーになりたい話」に戻って終わるので、綺麗にまとまった印象を受けた。

・導入部で寮に馴染めない様子などを手早く描いて、主人公に共感させるのが上手いと思った。

・男性客の言葉がワンパターンでサンディが呆れるシーンは、漫画の『メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?』で同様のシチュエーションを見たことがあった。その漫画でも、男性に怪物的なイメージを抱くようになったり、女性が心を削られていく表現があった。だから、『ラストナイト・イン・ソーホー』の60年代イギリスの悲劇は、遠い昔の解決済みの問題というよりは、日本では現代にも依然としてあるものだと感じられた。イギリスではもう無いのだろうか。

・60年代のエロティックなショーが異様で悪趣味でグロテスクなものに見える演出はよかった。悪趣味だけど、作り込まれたバッドテイストの魅力があるのもよかった。配信が始まったらもう一度観たい。

・事件を解決しようとする過程で、主人公が各所で変人扱いされるのだが、「言ってることが理解されなくてかわいそう」と同情するのではなく、「いったん落ち着いて病院で診てもらったほうがいいのでは…」と感じた。その辺りに限っては、映画の歯車と自分の歯車が噛み合わなかった。

・主人公が内見した部屋を絶賛したシーン。最初に観た時は、「大家のおばあさんは褒められてきっと喜んだだろうな」と思った。けど、物語の終盤で、ひどい思い出が詰まった部屋だと分かってからは、部屋を絶賛されて「何も知らない小娘が!」と思ったかも、と思った。

・映画にしても小説にしても、しばしば、黒幕の正体が明かされる前に薄々気づいてしまうケースがあるが、この映画では、おばあさんがサンディだったとはまったく思いもしなかった。上手く隠されていた。

・悪い男が女性に逆襲されるという点ではデス・プルーフ in グラインドハウスを連想した。僕はデス・プルーフが大好きなのでたまたま連想しただけだが、そういえばエドガー・ライト監督はグラインドハウスに関わっていた。

・主人公は60年代ファッションの見た目に憧れるのだが、その服がどのような場所で誰に着られた歴史を背負っているのかまでは想像していなかったのではないか。だから、その内実が明らかになっていくような展開に好感をもった。

(2021年12月12日 @TOHOシネマズ浜松)